海自ヘリ2機の墜落事故 フライトレコーダーを回収
海自の哨戒ヘリコプター「SH-60K」が2機墜落した事故が発生しました。
昨年、陸自ヘリが海に墜落した事故ではフライトレコーダーの回収が困難でしたが今回の海自ヘリのフライトレコーダーはすでに回収されたと報道がありました。
海自ヘリのフライトレコーダーの回収が早かったのは洋上用のフライトレコーダーを取り付けていたことで海上に浮遊するフライトレコーダーを回収できたと考えられます。
陸自ヘリ墜落事故のフライトレコーダー
陸自ヘリが海に墜落した事故。
回収が困難と報道されているフライトレコーダーを深堀りします。
今回の墜落事故でよく見かけるニュースタイトルが、
陸自ヘリ、海の事故を想定していなかった。フライトレコーダーの回収困難。
コレだけ読むと「防衛省、アホちゃう?」ですが、核心が切り取られています。
切り取られた情報でなく、陸自・海自・空自のヘリコプターのフライトレコーダーを深堀します。
機体を回収する民間業者「深田サルベージ建設」
墜落した陸上自衛隊のヘリコプターを回収する入札が行われました。
落札した民間業者は、“東京に本社のあるサルベージ会社のグループ会社”という記載でした。
となると、東京に本社のあるサルベージ会社(=日本サルヴェージ)のグループ会社(=深田サルベージ建設)と思われます。
両社は、去年1月に航空自衛隊の F-15 戦闘機が石川県沖に墜落した事故などでも機体の捜索や引き揚げも行なっているサルベージのスペシャリスト。
深田サルベージ建設は、曳船兼海難救助船・深海潜水装置などサルベージに必要な各種船舶を所有しています。東京ゲートブリッジの建設にも携わっている総合海事企業のパイオニアです。
なぜ民間企業なのか?
民間企業から入札した理由は自衛隊には海底から引き揚げる技術が無いからです。
潜水艦から乗員を救難する技術(潜水艦救難艦ちはや)はありますが、墜落した機体そのものを引き揚げることはできまけん。
そのため、サルベージのスペシャリストの民間企業に委託することになります。
陸自ヘリを引き揚げる多目的作業船「新世丸」
海底に沈んでいる陸自ヘリを引き揚げるのは深田サルベージ建設の新世丸。
新世丸は、DPS(ダイナミック・ポジショニング・システム)を搭載をした多目的作業船で、海上作業している位置を保持する定点保持機能があります。

写真転載:深田サルベージ建設
ROV(遠隔操作無人探査機)は「はくよう 3000」を搭載しています。「はくよう 3000」で海底に沈んでいる陸自ヘリの状況を確認できます。
サルベージ船 新世丸の現在位置
マリントラフィックは世界中の船舶のトラフィックを表示するサービスで、深田サルベージ建設の新世丸の現在位置も見ることができます。
新世丸は宮古島の沖合で作業していることをリアルタイムで確認できます。
海の事故は想定内の仕様
メディアでは、陸自ヘリは「海の事故を想定していなかった」と報じていますが、フライトレコーダーの製造メーカーは当然、海の事故を想定しています。
航空機事故で想定される過酷な環境でもフライトレコーダーは壊れない堅牢性があります。
マスコミは、海での墜落は想定外、位置発信の仕組みがない。と報道していますがそれ、誤報です。
フライトレコーダーにはアンダーロケータービーコン(ULB)がという装置が取り付けられます。
ULB は水中ロケータービーコンとも呼ばれ、水中に沈むと水銀電池により自動的に超音波信号を発信する仕組み。
フライトレコーダーは、水深 6,000m の水圧に耐えて、30日間持続して電気パルス・ビーコンを送信します。
1 秒間に1回 10ms の低周波パルスが 37.5 kHzで送信されて、水没地点から 2~4km の範囲で受信できるとされます。
海底に沈んでも、電気パルス・ビーコンが送信されてフライトレコーダーの位置が特定ができます。
電気パルス・ビーコンは音波
電気パルス・ビーコンは超音波。
音波は水中で伝わりやすく、空気中では伝わりにくい性質。電波はその逆です。
つまり、フライトレコーダーは海の事故をよっぽど想定しています。
洋上用のフライトレコーダーとは
マスコミが「洋上用」と言っているフライトレコーダーは、ヘリコプター用分離・浮遊ユニットのこと。
ヘリコプター用分離・浮遊ユニットは海上自衛隊の哨戒ヘリコプターや航空自自衛隊の救難ヘリコプター UH-60J など一部のヘリコプターが採用している機外に取り付けるタイプです。
海上自衛隊の哨戒ヘリコプター SH-60K では左後方に装着されます。
ヘリコプター用分離・浮遊ユニットには、「安全な装置だよ。もし、見つけたら自衛隊に連絡してね!」と書いてあります。
航自 UH-60Jのフライトレコーダー
航空自衛隊の救難ヘリコプター UH-60J の分離・浮遊式のフライトレコーダーは、右後方に装着されています。
分離・浮遊式のフライトレコーダーは、不時着水したときに飛行記録装置(フライトレコーダー)のユニットが自動的に分離して海底に沈むことがありません。
分離したユニットは浮遊して電波信号を発信するので位置を発見できます。
洋上型、見つけやすくてすげーいいじゃん!
と、思いがちですがフライトレコーダーだけ見つかったらどうでしょう?
救難信号が出ていなかったヘリを海底から発見するのは相当困難だったと想定されます。
俺考ですが、機体の発見はULBからの電気パルス・ビーコンを頼りにしたとも考えられます。
海底の機体からフライトレコーダーの回収は難しいことのは事実ですが、海上を飛行する自衛隊機のフライトレコーダーは洋上型にすべき!は、極端な話です。
洋上用でも外れない
過去にも自衛隊の同型ヘリが海上に墜落した事故が2件あります。
どちらも洋上用のフライトレコーダーを装備している機体です。
報道記事から考察するとフライトレコーダーの回収が異なっています。
海自 SH-60J
墜落後、浮上したフライトレコーダーを回収
空自 UH-60J
海底から引き揚げた機体後部からフライトレコーダーを回収
空自の UH-60J は洋上用のフライトレコーダーを装着していたけど墜落時に分離しなかったと想定されます。
フライトレコーダーの主流
航空機のフライトレコーダーは機体後部に装着するの主流です。
海上で飛行する航空機なのに、洋上用のフライトレコーダーを付けていないのが間違っている!とマスコミが騒いでいますがそれ、誤報です。
海上を飛びまくる海上保安庁のヘリにもついていない、
荒れ狂う海で救難活動をする海自の US-2 救難捜索機にもついていない。
アメリカ大統領が搭乗するマリーンワンにもついていない。
つまり、フライトレコーダーは機内に装着しているのが普通です。
太平洋横断で海上をずっと飛行する民間の飛行機は洋上用のフライトレコーダーを装着してるなんて話はありません。
海自と空自のヘリが装着している「洋上用」のフライトレコーダーが特別なのです。
ブラックボックスと違うのか?
航空機事故があると、いつも「ブラックボックスの回収」と報道していますが、今回の陸自ヘリの事故では「フライトレコーダー」と表現されています。
フライトレコーダー(FDR※1)とは、高度・速度・角度・出力など飛行記録を保存するデータレコーダーです。
もつひとつ、コクピットボイスレコーダー(CVR※2)という、コクピットでの会話、管制塔との無線交信、周囲のノイズなど音声データを保存する装置もあります。
このふたつのレコーダーがブラックボックスと呼ばれて事故原因を究明・解析するための重要な記録データです。
※1 FDR = Flight Data Recoder
※2 CVR = Cocpit Voice Recoder
航空機の飛行記録と音声記録を記録することは、航空法6 1条 施行規則 149 条で規定されていて、
回転翼(ヘリコプター)は、最大離陸重量 7,000kg を超える機体の場合はフライトレコーダーを搭載する義務があります。
同系機の UH-60L の最大離陸重量が 106600kg なので UH-60JA も回転翼機としては対象ですが、自衛隊の航空機は、自衛隊法第 107 条によって航空法の適用除外にあたります。
軍用機のフライトレコーダー
フライトレコーダーの情報は暗号化なしで記録されます。
というとこは、軍用機が戦地で撃墜されて敵にブラックボックスを回収されたら基地の位置、通信内容などの情報がまるっと奪われるというとこになります。
軍事的にはヤバい仕様です。
海自・空自と陸自のヘリは任務の佇まいが違っています。
陸自ヘリには FDR を搭載していなかった可能性もあります。
陸自のヘリも機体後に FDR を搭載してます。
ちなみに米軍の軍用ヘリはフライトレコーダーを搭載していないようです。が!それを非難してるひとも見かけません。
ブラックボックスの色
フライトレコーダーとコクピットボイスレコーダーがつまったブラックボックスですが実際の色は黒色じゃありません。
ブラックボックスは、レスキューオレンジといわれる明るいオレンジまたは黄色で発見しやすい目立つ色が国際的な決まりになっています。

画像出典: 関東航空計器株式会社
ブラックボックスの語源は 2 つの起源が考えられます。初期のレコーダーが黒く塗装されていたためだと考える人もいれば、事故後の火災で発生する焦げ付きを指すと考える人もいます。
レコーダーが記録する内容とは?
フライトデータレコーダー(FDR)は、88 種類のパラメーターを1秒以下の間隔で保存する要求が連邦規則で定められて、最新の 25 時間以上のデータを記録します。
コクピットボイスレコーダー(CVR)は、コクピットに設置されたマイクで、パイロットのヘッドセット、副操縦士のヘッドセット、3 人目の乗組員(3 人目の乗組員がいる場合)のヘッドセット、およびコックピットの中央付近に配置されて、会話や音声アラートなどの過去 2 時間の音声を拾います。
FDRが記録するパラメータ例
- 航空法
- 経過時間
- 高度
- 速度
- 機首方位
- 垂直加速度
- ピッチ角
- ロール角
- エンジン出力
- 各無線送信時間
- フラップ位置
- 操縦桿の位置
- 方向舵ペダル位置
- 横加速度
- 迎え角
CVRが記録するデータ
- コクピット内での会話、
- 地上管制官との無線交信
- コクピット内のアラーム音
- 周辺のノイズ
フライトレコーダーの堅牢性
航空機事故という過酷な条件下において情報データを保護できるようになっています。
海底 100m にある UH-60JA のフライトレコーダーの記録は十分に保持されていると想定されます。
衝撃静破壊 | 3,400Gの衝撃6.5ミリ秒 連続した2.2トンの圧力を各軸に5分間 |
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耐火防護 | 1100 ℃で 30 分 |
海水防護 | 海水 3m の深度で30 日間 |
深海圧力 | 6000m 深海海水 30日 |
液体浸食 | 航空機燃料、潤滑油、作動油、トイレ洗浄液、消火器薬剤に48時間 |
フライトレコーダーの回収が困難はホントか?
(たぶん)ホント。
自衛隊には、海底から機体を回収できる技術がないので困難と表現しています。
困難=回収しない、ということでなく引き上げスキルは自衛隊の活動範囲外になるために民間のサルベージ会社と引き上げる方法を検討すると思われます。
マスコミはネガティブな話題は大きく見出しにするけど、回収が可能になると途端に騒がなくなります。
回収“可能”なフライトレコーダーのまとめ
フライトレコーダーのことを、もともとよく理解していない政治家の発言をよく理解していない記者が切り取って、よく知らない人たちに伝えてるから適当で薄っぺらい。
切り取られた報道では真実はわかりません。
グーグル検索は同じような記事で埋まっているけど、そうじゃない情報を深掘りするとわかることがあります。
くどくど解説したけど…、ネットのテキストは
深読みせずに、深掘りせよ!
以上ッ!